« 第91話 賃金の硬直性 | Main | 第92話 レイテの地滑り災害 »

February 17, 2006

第92話 賃上げ

 毎年6月は頭の痛い季節だった。ベースアップのことである。上げ過ぎれば労務費の上昇は利益に影響するし、何しろ一度上げたら二度と下げられないからだ。かといって抑え過ぎれば、有能な人材は他社へと流れてゆく。近隣各社の動向にも注意しながら、様々なシュミレーションを行い、夫々のケースでどれだけ労務費が上昇し、どのような反応が社員から見られるか、数週間悩むこととなる。最終的には本国の承認も必要だし、気を配らなければならない対象が四方八方にあるのだ。そんな状況の中で総務部長が出してきた最初の案には、空いた口が塞がらなかった。
=マネージャ以上が20%アップ、スーパーバイザーが10%アップ、事務員、班長が5%アップ、オペレータは昇給なし=という内容である。私はいくつか質問した。
「労務費上昇の総原資はインフレ率以内の6%以下といったはずだが。」
「このシュミレーションで6%以内に入ります。これが計算式です。」
私も電卓を叩いた。確かに計算上は6%以内である。しかし、
「ミニマムウェッジの切り上げは今年度さらに5ペソあるじゃないか。それをどこに織り込んでいるのだ?」
労働省からの通達で11月から最低賃金5ペソ切り上げが目の前に迫っている。
「あっ、それは別原資じゃなかったんですか?」
油断も隙もないとはまさにこのことだ。彼は続けた。
「部長ミーティングでは全員がこの案に賛成してくれました。」
当たり前だ!自分たちの給料が20%も上がるのに反対する者などいるはずがないじゃないか。作業者の賃金は最低限に抑え、その原資は一部の上層部で分け合おうという彼らの考え方はフィリピン社会の縮図そのものである。万一この案が通っていたら、この総務部長は仲間内でヒーローになっていたことだろう。

|

« 第91話 賃金の硬直性 | Main | 第92話 レイテの地滑り災害 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/91498/8696517

Listed below are links to weblogs that reference 第92話 賃上げ:

« 第91話 賃金の硬直性 | Main | 第92話 レイテの地滑り災害 »